サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜

「味思い出しながら作ったって……どっかの有名なシェフみたいな台詞。絶対味覚でも持ってるの?」


この胸の高鳴りがバレないように、私は冗談っぽく笑ってみせた。

今更あんな台詞……ずるい。

あんなの聞いたら、私が別れを告げてからの二年間で、何度か私の事を思い出してくれたみたいじゃん。

まぁ、正確には私の作った肉じゃがを思い出していたということにはなるんだけど……それでも、こんなの、嬉しくないわけがない。


「実は持ってるのかもな。手伝う」

「ありがとう」


キッチンに二人で肩を並べて、淡々と作業をこなしていく。

深月くんはというと、あんなに料理をする事を嫌がっていたとは思えないような慣れた手つき。

そして、また高くなったのかな?と何度か考えるくらいに高い背。


……そうか。二年が経ったんだもんね。


「見すぎ。ちゃんと手を動かせ」

「えっ⁉︎ あ、ご、ごめっ……」


あの頃よりも高く感じる背に、程よくついてる筋肉。それをつい、まじまじと見てしまっていた私の視線に彼はどうやら気づいていたらしい。

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