サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
「そうですか……」
「ははは。まぁ、朝比奈さんかっこいいよね。30歳には見えない爽やかさがあるよね」
北沢さんはにこにこと笑いながら、最後の一口をペロリと平らげた。
「無理に話せとは言わないけど、何かあれば言ってね。力になるよ」
「北沢さん……」
「ただ、辛いことも多いだろうし、究極の選択を迫られることもあると思うから、頑張りなね」
「……はい」
その後、私と北沢さんは他愛もない話をしながらランチタイムを楽しんだ。
「松本さん、ちょっといい?」
13時前にオフィスに戻り、作業を淡々と進めていると、トントンと肩を二度叩かれた。
「あっ、朝比奈さん……!はい。大丈夫です。何でしょうか」
後ろを振り返ると、そこにいたのは朝比奈さんで、私はつい挙動不審になってしまった。
「はは、そんな緊張しないでよ」
「だ、だって……」
面白そうに笑っている朝比奈さんの前で、必死に呼吸を整える私。
「……今日、行くね」
朝比奈さんは一度辺りを見渡すと、少しだけ私の耳元に口を近づけて一言放つ。そしてすぐにその場を去っていった。