サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
仕事を定時で切り上げ、急いで家へと帰ってきた私。
朝比奈さんが来るからと急いで念入りに掃除をし、ご飯を炊いている間におかずを作った。
残業は早めに切り上げて行くから、と少し前に連絡があった。だから、きっと朝比奈さんはもう少しでくるだろう。
そう思いながら、待つこと約一時間。
一時間が過ぎてもまったく鳴る気配のないインターホン。
何かあったのか、とか、残業が長引いているのかと思いながら、私は玄関へと向かった。
「……まだかな」
ドアを開いて、外へと出る。下にある小さな駐車場を見下ろしながら、スマートフォンをポケットから取り出した。
すると、取り出したとほぼ同時にピロロンと鳴ったメッセージの着信音。
急いでそれを開いて見る。メッセージを見た瞬間に、私の肩はがくりと下がった。
《今日、行けなくなった。ごめん。》
いつものように、たった一言のメッセージ。
それだけで、私の気分はこれでもかというほどに急降下した。