サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
大きく息を吸って、吐いて、何度も深呼吸をした。
「お姉さん、どうしたの? 俺と一緒に遊ばない?」
「えっ……な……み、深月くん……」
突然、後ろからかけられた声。その声に反応して振り向くと、そこにはスーツ姿の深月くんがいた。
深月くんに泣いていたことがバレないよう、服の袖でぎゅっと涙を拭った。
「はは、びっくりしただろ?」
「そりゃあびっくりするよ。こんな風に急に声かけられたら」
手すりに両手をかけて、下を向く。すると隣に深月くんが並んだ。
隣に並んで、遠くの空を見たままで彼はゆっくりと口を開いた。
「そんな男、やめておけよ」
静かに、でも、力強くそう言った深月くんは、私が泣いている事も、その理由も見透かしていた。
「……なんでそんな事……そんな簡単に言わないでよ」
私だって、朝比奈さんを好きでいる事をやめられるならやめたい。
……やめられるのなら、もっと早くに、ちゃんとやめている。