サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
一番
朝比奈さんに会えなくて、泣いてしまったあの日から数日が経った。
だけど、朝比奈さんとは仕事内容で二回話したくらい。〝会おう〟なんてメッセージも一度もない。
仕方がないことだと分かっている。それに、こんなこと今までに何度だってあった。
奥さんの家族と過ごすからと、ずいぶんと長く会えなかったクリスマスから年始。
連休がやって来ると、奥さんと一緒に出掛ける。連絡は、その間に一度だってない。
それに比べれば、こんなの容易いじゃない。
「凛花ちゃーん」
「あっ……はい」
「さっきから何回も呼んでるのにー。どうしたの? 元気ないね」
後ろから声がかかって、振り向いた。
私を呼んでいたのは北沢さんで、私の顔を覗き込むようにしてじっと見ると、とても心配そうな表情をした。
「……すみません。大丈夫です。ちょっと考え事してました」
「あー、A氏の事ねー」
軽く頭を下げた。そんな私の頭上から降ってきたのは、北沢さんの自信ありげな声。
頭を上げて北沢さんを見ると、やはり彼女は自信満々な表情で私を見ていた。