サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜

「A氏って……」

「ふふ。当たりでしょう?」

「それは……ノーコメントで」


ノーコメントだと言ったって、恐らくすべてを見透かしている北沢さんはニヤニヤとした表情で私を見ている。


「おーい。北沢、ちょっといいか」

「あ、はーい。それじゃあ凛花ちゃん、また話そうね」

「あ、はい」


突然、オフィスの入り口付近から男性社員に呼ばれた北沢さん。彼女は少しだけ面倒くさそうに返事をしたあと、右手をひらひらと振って去っていった。

彼女と、彼女のことを呼んだ男性。その二人がオフィスを後にした。


「……あ」


それとほぼ入れ替わりでオフィスに入ってきたのは朝比奈さん。彼の姿が目に入ると私の口からはつい声が出てしまった。

朝比奈さんはキョロキョロと辺りを見渡し、誰かを探している様子。そんな彼をじっと見ていると、ついに私のいる方に視線が向いて、ピタリと視線があった。

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