サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜


────翌朝。


「気をつけて帰ってね……か」


私は、テーブルの上に置いてあったメモと三枚のお札を手に取った。

《気をつけて帰ってね》と書かれたメモは、朝比奈さんなりの優しさ。そして、この三枚のお札、タクシー代も彼の優しさ。


だけど……こんな優しさは、静かで、孤独で、空っぽになってしまった私の身体を余計に虚しくするだけだ。

朝は、私にとって一番寂しい。

彼は、目を覚ますと隣にはいない。最後まで隣にはいてくれないんだ。

今頃、奥さんの手料理を食べているんだろうな……なんて考えると、胸が痛い。


「……帰ろう」


今日は、土曜日。会社は休みだ。

これから私は家に帰って、一人で寂しくご飯を食べたり寝たりする。

ただ、それだけだ。



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