サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜

合ってしまった視線はそのままで、彼の右手が私を手招きした。


「えっ……」


人差し指で自分の顔辺りを指し、私のことを呼んでいるのかどうかを確認する。すると、朝比奈さんは優しく笑って二度頷いた。

そっか……そうなんだ。私のことを探していたんだ。

少し単純だけれど、それだけで高鳴っていく胸の鼓動を抑え、私は朝比奈さんのもとへ足早に向かった。


「ど……どうしたんですか?」

「ちょっと、今朝あった大量注文についてなんだけど……いい?」

「えっ、あ……はい」


ああ、そっか。仕事の話かぁ。

朝比奈さんの言葉に、自然と眉尻や肩が下がった。

今日会おう、とか、そういうプライベートな話だと、ちょっとだけ……いや、かなり期待してしまっていた自分が恥ずかしい。


仕事中だというのに、構わず湧いてくる自分の中の欲や下心を反省しながら、歩き始めた朝比奈さんの後ろをついて歩く。

朝比奈さんは、少し歩いたところにある自動販売機二台と横長のイスが置かれた休憩ブースで立ち止まった。

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