サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
「キミ、松本凛花ちゃんだよね?」
「えっ、あ……はい」
「俺ね、最近ここに転職してきた営業部の寺坂っていうんだけどさ」
「あ、はい……」
見たことない顔で、名前も知らない人だと思ったら……最近ここに来た人で、おまけに営業部だというなら分からなくて当然か。
文房具を取り扱う全国のお店から受けた受注データをまとめて商品の出荷処理を行う、私たち受注管理部。
そんな受注管理部と営業部とはあまり接点がない。全くないわけではないけれど、あまり気にかけていなかったからか、全く知らなかった。
「俺さ、前から凛花ちゃんのこと可愛いなって思っててー」
「えっ……と」
結構ぐいぐいくるなぁ。
北沢さんにガツンと言ってもらおうにも、もう完全にダウンしてしまっている北沢さんに助けの求めようがない。
「凛花ちゃんって、彼氏とかいるの?」
「えっ、それは……」
彼氏はいます。と、頷いてしまいたかったけれど、頷けなかった。
朝比奈さんは……私の、彼氏じゃない。