サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
隣人
「誰の女に手出してんだ」
「み、深月く……」
私を抱擁している寺坂さんの背後に現れ、寺坂さんの右肩を強く掴んだのは……スーツ姿の深月くん。
「あ? 誰だよお前」
「それは、こっちの台詞。そっくりそのまんまお返ししてやるよ」
寺坂さんが私から一度離れた。逃げるチャンスだと思ったけれど、どうしても足が動かない。
まだ、ガクガクと小刻みに震えている。
「こいつさ、俺の女なの。お前みたいな見ず知らずの他人に気安く触られるとムカつくんだよ。分かる?」
分かったなら、散れ。
寺坂さんにそう言い捨てた深月くんの目は、私から見ても少し怖かった。そのくらい、怒っていた。
寺坂さんは、決まりの悪い顔をした後、走り去った。
「大丈夫か……って、危な」
急にこみ上げてきた安心からか、震えていた足の力が一気になくなった。そして、そのまま倒れそうになった私の背中を深月くんが支えてくれ、私は何とか倒れずに済んだ。