サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜



「ただいま」


ガチャン、と音を立てて扉が閉まる。

家賃が安くて職場がまあまあ近いという理由だけで住むことを決めた、古いアパート。その202号室は私の住む部屋。

私は中へと入っていくと、リビングにあるソファーに勢いよく寝転がった。

寝転がったままで、テーブルの上のチャンネルに手を伸ばし、赤い電源ボタンを押す。すると、いつも見ている朝の番組が流れ始めた。

見慣れたアナウンサーが、ここ最近あった物騒なニュースを読み上げる。

その左上には《7:46》という時刻が表示されていた。


「……あ!」


ソファーから飛び上がった私は、キッチンの冷蔵庫に貼り付けてあるカレンダーを見た。今日は、3月5日。第一土曜日。

すっかり忘れていたけれど、燃えないゴミを出す日だ……!

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