サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
「ご、ごめん……」
「ほんと危なっかしいな。いいから、掴まってろ」
「……うん」
深月くんの腕を掴み、何度も大きく深呼吸をした。
「ねえ……どうして深月くん、来てくれたの」
「偶然、すぐそこの居酒屋で大学の講師やってるおっさん達と飲み会してて、ちょっとタバコ吸おうかと思って外出たらお前があの男に追っかけられてるの見つけた」
「そっか……」
そう言って、深月くんがすぐそばの居酒屋を指差した。
この辺は居酒屋やバーが集まっていて、この時間帯……特に金曜日のこの時間帯はサラリーマンなどの会社員で賑わっている。
飲みに行くといえば大抵このあたりの居酒屋だ。そこに偶然深月くんも来ていたという事なら納得できる。
「……歩けるか?」
「うん。大丈夫」
「はぁ……またお前は。全然大丈夫じゃないくせになぁ」
呆れた表情をして、溜息交じりに深月くんがそう言った。彼は、本当にほんの少しだけ、まだ震えている私の足に気づいていたのだ。