サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
深月くんは突然私に背を向けると、しゃがみ込んだ。そして両手を後ろに回した。
「ほら、後ろ乗っかれ」
「えっ……む、無理だよ!」
「いいから。乗れ。じゃなかったらどうやって帰るつもりだ。一人じゃ歩けないだろ」
「で、でも……」
「でも、じゃない。この体勢意外ときついから早くして」
後ろに回している両手を上下に動かして、早く乗れとアピールしている。
確かに、彼の言うとおり一人ではとてもじゃないけれど歩けないし、歩けるようになるまで彼に一緒に待ってもらうわけにもいかない。一人で歩けるようになるのを待つのも不安すぎてできない。
となると、私の選択肢は一つしかなかった。
「……ごめん。深月くん」
ゆっくり深月くんの背中に体重をかけた。すると、深月くんは私の足を優しく両手で持ち、立ち上がった。
「この間から、ごめんごめん言い過ぎ。凛花は何も悪くないから」
「深月くん……」
深月くんの声が、暖かくて優しい。
もう、それだけで私の心は癒されて、とても安心できた。