サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
「深月くん」
「ん?」
「あのね」
「うん」
「あの、ね……」
「うん。どうした?」
深月くんの声のトーンが柔らかい。多分、今の深月くんの表情はとても優しい。何故か、顔を見なくても分かった。
「すごく……怖かった。ありがとう」
今まで無意識のうちに溜め込んでいた温かいものが次々と溢れ出し、頬を伝っていく。
「……ん。どういたしまして」
深月くんの胸の前で繋いでいる両手の力をぎゅっと強めた。
私を背負って家路を歩く深月くん。
深月くんか一歩踏み込むたびに揺れるのも、深月くんの背中の暖かさも、私の足を支える大きな手も、全部が心地いい。
私は、ゆっくりと瞼を閉じた。
トン、トン、トンと歩くリズムに合わせてやってくる振動。それから、微かに聞こえてくる深月くんの胸の音。
瞼を閉じて五分もしないうちに、私は深い眠りへとついていた───。