サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
いつも行っている近所のスーパーではなく、10分くらい歩いた場所にある大きなスーパーのセール内容が大きく取り上げられたチラシ。
私は、そのチラシと財布を手に取った。
「ごめんね。すぐ帰ってくるから」
「俺も行くよ」
スーパーで、適当な材料を急いで買ってこよう。そう思ったけれど、ソファーに腰掛けていた深月くんが立ち上がると、上着に手を通しながらそう言った。
「え、あ……うん。いいの?」
「うん。いいよ」
優しく答えた深月くんが頷いた。
なんとなく、昨日の事があったから一緒に行くなんて言ってくれるのかな、と思った。
「ありがとう。深月くん」
本当は誰よりも優しい深月くんだから、きっとそうだ。間違いない。
深月くんの優しさに胸が熱くなる。だけど、それを顔に出すまいと私はポーカーフェイスを装った。
そして、部屋を出ると深月くんと肩を並べて歩き始めた。