サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
スーパーを二人で並んで周り、食材を見ている間に他愛もない会話をした。
まるで昔みたいで、何度も懐かしさが込み上げたけれど、それと同時に、その頃の恋心も微かに蘇ってきた。
でも、それでも私が好きなのは……私のものではない人。朝比奈さんだ。
「貸して。持つから」
「え、でもっ」
「ほら」
レジ袋に買った物を移し、二つの袋を両手で持った私。そんな私に向けて、深月くんが両手を差し出した。
「い、いいよ。お買い物着いてきてもらって荷物まで持ってもらうなんて……」
「凛花」
申し訳なくて、どうしても荷物を渡せずにいた私。そんな私を優しく、でも強く呼ぶ彼に、私は渋々ひとつだけ袋を手渡した。
「でも、これは持つ。流石に両方は持ってもらえない。こっちなら軽いし……いいでしょ? ね?」
切れかけの調味料や食パンの入ったレジ袋。それだけは渡すまいと、必死で説得をする。
すると、深月くんは笑って「分かったよ」と返してくれた。