サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
「おはようございます」
「あ、凛花ちゃんおはよう」
オフィスに入り、すぐ左手にあるコピー機を使用していた北沢さんと挨拶を交わし、自分の席へと向かった。
「松本さん、おはよう。昨日の受注ファックスなんだけど、データまとめておいてくれない?」
「あ、はい。分かりました」
「ありがとう。助かる」
「いえ」
一息つく間もなくパソコンの電源を入れ、仕事を始めようとした私の背後に微かに感じる視線。
振り向こうとしたその時、私の両肩に女性の細い指が置かれた。
「ねぇねぇ、凛花ちゃん」
「え、あ……はい。なんですか?」
私の背後にいたのは、なんだか決まりの悪そうな顔をしている北沢さんだった。
「金曜日はごめんね。私凄い酔っ払っちゃってたみたいで」
本当にごめん、と両手を合わせている北沢さん。彼女に、私は首を振って笑った。
「いいえ。全然いいですよ。私こそ、先に帰っちゃってすみませんでした」