サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
「凛花ちゃん、お疲れ」
「お疲れ様です」
淡々と仕事をこなし、あっという間に退勤時刻の18時となった。
会うことを恐れていた朝比奈さんとは会っていない。今日、朝比奈さんは出張らしいという話をお昼休みに北沢さんに聞いた。
その話を聞いた時は、正直すごく安心した。だけどその反面、少しだけ悲しい気持ちになった自分もいた。
奥さんと一緒にいるところを見たって、朝比奈さんにただの部下だと言われたって、会いたかった。会いたいと思わずにはいられなかった。
「……よし。帰ろう」
カバンにペンとファイルを詰め込み、イスから重たい腰を上げた。
するとその瞬間、カバンの中のポケットに仕舞っていたスマートフォンの画面が光った。
スマートフォンを手に取って画面を見ると、画面に表示されているのは新着のメッセージの通知。
……そして、そのメッセージの相手というのは、朝比奈さんだった。