サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
朝比奈さんから、こんな事を言われるのは初めて。まさか、朝比奈さんがこんな事を言うなんて思っていなかった。
例え二番目でも、奥さんがいても、朝比奈さんは私の事を離さないでいてくれると思っていた。
……でも、そんな朝比奈さんが距離を置こうと言っている。これは、紛れもなく現実だ。
「は……はは……ばかだ、私」
頬を、何粒もの涙が伝っていく。
朝比奈さんの言葉の真意が分からない。でも、怖くて聞けない。
ただただ静かに涙を流し、部屋のドアノブを掴んだままで私は立ち尽くしていた。
「凛花……?」
自分の部屋の前で立ち尽くす私。そんな私の左側から私を呼ぶ声がして振り向くと、そこには片手にビニール袋を下げた深月くんがいた。
「み、つきくん……」
ドアノブから手を離し、頬の涙を拭った。
「……はぁ。また泣いてる」
溜息交じりにそう言った深月くんが、私の方へと足を進めてくる。目の前へとやって来たところで、私は深月くんの服の袖をぎゅっと掴んだ。