サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
「どうした」
素っ気なく、でも、優しいトーンで言った深月くんの言葉。それに涙がまた溢れ出てきた私は、そのまま深月くんの胸元に額を預けた。
「お前なぁ……ちょっと来い」
私の腕を掴み、深月くんが自分の部屋へと歩き出した。私は拒否することもなく、そのまま深月くんの部屋へと入り、玄関で深月くんと見つめ合った。
「ほら、手を離す」
「……嫌」
気づけば、また掴み直していた深月くんの服の袖。彼はそれを離せと言ったけれど、私は首を横に振った。
「お前、自分が何やってるか分かってんのか」
少しだけ怒っているよつな口調。私は返事も何もしないで俯いていた。
「言ったよな。俺は、まだお前の事を好きだって。そんな男の家にまんまと上り込んだり、そんな風にして袖掴んだりなぁ……」
「でも、深月くんが来いって言った」
「それじゃあ、俺がお前の傷に漬け込んで抱かせろって言ったら、お前は言われるがまま抱かれる。そういうことか? 悪いけど、俺は好きな女目の前にしてお預け食らえるほど大人じゃないからな」
深月くんの言葉に、胸が大きく脈を打った。だけど、私は袖を掴む力を更に強めた。
「……バカが。どうなっても文句言うなよ」
頭上から降ってくる深月くんの言葉。
表情を見ようと上げた視線に絡んだのは、深月くんの熱を持ったような視線。
視線を絡ませたまま、どちらともなく顔を近づけ、私はそのまま瞳を閉じた────。