サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜


「……バカ」

「バカはどっちだ。ずっと、そんな泣きそうな顔して」


私が深月くんの家に上がってから数時間が経った。私達は、リビングのソファーに二人並んで腰掛けている。

私は、深月くんとキスをしてしまった。だけど、それ以上は何もない。深月くんは私にそれ以上手を出そうとしなかった。


「お前絶対後悔するだろ。そんな中途半端な覚悟でそういう事するな。耐えるこっちの身にもなれ、このバカが」


こつん、と深月くんの拳が右側から頭に当たった。


「……ごめんなさい」


悔しいけれど、深月くんの言うとおりだった。

朝比奈さんから距離を置こうと言われて、悔しくて、辛くて、悲しくて、どうしたらいいのか分からなくなった。

頭がこんがらがって、もう、どうにでもなれと思っていた。

深月くんに、心に空いた穴を埋めてもらおう。なんて、そんな最低な事すら考えていたような気がする。

だけど、本当に深月くんに抱かれてしまっていたら……多分、きっと、私は後悔したと思う。

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