サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜

「お前に戻ってこいって言ったけど、お前が俺のものになる覚悟ができたらだって、そう言ったよな? それはつまり、アイツの事は忘れるって事。今のお前は、まだアイツを忘れたくないって思ってる」


だから、今のお前は抱けない。

そう言った深月くんは、私の全てを見透かしていた。

私は、深月くんを利用しようとしながらも、心の奥底ではまだ朝比奈さんからの言葉を待っていて、まだ朝比奈さんを好きでいる事を止めたくないとも思っている。

それなのに私は、深月くんのことを利用しようとしてしまった。本当に、最悪だ。


「……流石だね」

「バカ。俺を誰だと思ってる」

「もう。そうやってさっきからバカバカ言わないでよ」


右手で深月くんの肩を叩いた。すると、深月くんは「だってバカだろ」なんて言って笑う。


しばらく私たち二人は、ソファーに並んで座ったままで他愛もない会話をした。

仕事はどうだとか、スーパーに期間限定のお菓子が売っていたとか、そんなレベルの、本当に他愛もない話。

そうしているうちに、カーテンの隙間からは光が差し込んできた。


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