サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜

「もう朝だね」

「ああ、本当だな」

「……仕事の準備しなくちゃ」

「大丈夫か? 会うんだろ。アイツに」


ソファーから立ち上がった。すると、後ろでまだソファーに座ったままの深月くんの心配そうな声が聞こえてきた。


「うん。大丈夫。なんとかうまくやるよ」

「……そっか」

「じゃあね。ありがとう。深月くん」


自分の部屋の前で泣いていた私に何があったかを言ったわけじゃないし、深月くんも聞いてこなかった。

だけど、深月くんは私が泣いていた理由を完全に見透かしていた。

今更だけど、本当に凄いな、なんて呑気に思いながら私は深月くんに背を向けて歩き出した。


部屋に帰り、シャワーを浴びた後で仕事の準備を始める。

今日は、間違いなく朝比奈さんに会う。だけど、私は朝比奈さんに言われたとおり、ただの部下を演じる。

それは、いつもしているのと同じ事だ。だから、大丈夫。きっと、大丈夫。

……うまくやろう。


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