サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
「……なんか、もうダメな気がする」
私は、ついさっきまで上がっていた口角を下げて、隣にいる深月くんに聞こえるように呟いた。すると、深月くんは優しいトーンで「何が?」と尋ねてきた。
「実はね……私、距離を置こう。って言われた。それ以来、本当に他人行儀で、まるで今までの事なんて無かったみたいにただの上司と部下をお互いに演じてる。もう、多分、私達このままダメになる」
「凛花……」
「でも、仕方ない事だって分かってる。もともと彼は私のものなんかじゃないし、結婚してるって分かってた。それなのに、私が彼の優しさに漬け込んだ。私が悪いの。分かってる。そんな事、分かってる……だけど、どうしよう……」
私、これからどうやって毎日を過ごしていけばいいの?
そう胸の内で思ったその時、震えていた私の手が何かに包まれた。
「……何のために俺がいると思ってんだ。前にも言ったろ。俺のものになる覚悟だけできたらいつでも戻って来いって」
手元に視線を移す。すると私の手は、深月くんの大きな両手に包まれていた。