サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
深月くんの目は、真っ直ぐ私を捉えた。
ドクン、ドクン、と高鳴り止まらない胸の鼓動が深月くんに気づかれないよう、私はまた視線を下に向けた。
「……なあ、凛花。もう、お前が苦しむ所は見たくない」
私の手を握る深月くんの指先の力が、ぎゅっと強くなる。
嬉しいはずなのに苦しくて、切なくて、ぎゅっと胸が締め付けられるみたいに痛い。
……私、どうして今更、深月くんが私の事をこんなに愛してくれている事に気がついたんだろう。
私は、こんなに愛されている。私の横にはこんなに自分の事を考えてくれる人がいるんだって、もっと早く気付けていれば、こんな事にはならなかったのかな。
……だけど、こんな後悔は今更すぎる。
「深月くん」
深月くんの手を、ほんの少しだけ力を入れて握り返す。そして、視線を上げて深月くんと目を合わせた。
「ありがとう。でもね……それでも、私、あの人の事……好きなの。今はまだ……忘れられないと思う。まだ、こころの隅っこで、もう一度連絡来ないかなって期待してるの」
精一杯、口角を上げてみせる。でも、瞳からは何粒もの涙がこぼれ落ちていた。