サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
今日、私は、大好きな朝比奈さんをこれ以上苦しめないために別れを選び、そしてそれを言葉にした。
私が言わなくたって、朝比奈さんから告げられたはずの言葉。それを私が先に伝えた。ただ、それだけ。
……だけど、その一言で完全に私達の関係は終わってしまった。
もう、朝比奈さんに『凛花ちゃん』と呼ばれることはない。
もう、朝比奈さんに優しく抱きしめられることもない。
もう、いつもみたいに……あんな風に優しく笑いかけてくれることもない。
私は、朝比奈さんの『二番目』でも『特別』でも何でもなくなった。
「う……」
涙は止まらず流れ続ける。さっき、あんなにたくさん泣いたのに。
悲しいし、苦しいし、どうしようもないくらい辛い。だけど、思っていたよりも楽だった。それに、少しスッキリもしているような気がする。
深月くんと別れたことで抱えた大きな傷と哀しみ。それを、癒してくれたのは朝比奈さんだった。
私は、朝比奈さんがいたから深月くんのことを忘れることができた。
結婚していると知っていたけれど、どうしても私には朝比奈さんが必要だった。本当に、ただただ好きだった。
きっと、朝比奈さんじゃなければ、私はこうしてまた人を好きになんてなれなかったと思う。