サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜

今日、私は、大好きな朝比奈さんをこれ以上苦しめないために別れを選び、そしてそれを言葉にした。

私が言わなくたって、朝比奈さんから告げられたはずの言葉。それを私が先に伝えた。ただ、それだけ。

……だけど、その一言で完全に私達の関係は終わってしまった。


もう、朝比奈さんに『凛花ちゃん』と呼ばれることはない。

もう、朝比奈さんに優しく抱きしめられることもない。

もう、いつもみたいに……あんな風に優しく笑いかけてくれることもない。


私は、朝比奈さんの『二番目』でも『特別』でも何でもなくなった。


「う……」


涙は止まらず流れ続ける。さっき、あんなにたくさん泣いたのに。

悲しいし、苦しいし、どうしようもないくらい辛い。だけど、思っていたよりも楽だった。それに、少しスッキリもしているような気がする。


深月くんと別れたことで抱えた大きな傷と哀しみ。それを、癒してくれたのは朝比奈さんだった。

私は、朝比奈さんがいたから深月くんのことを忘れることができた。

結婚していると知っていたけれど、どうしても私には朝比奈さんが必要だった。本当に、ただただ好きだった。

きっと、朝比奈さんじゃなければ、私はこうしてまた人を好きになんてなれなかったと思う。

< 85 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop