サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜

《はい、大丈夫です。待ってます》

朝比奈さんに返事を送り、私はソファーから立ち上がった。

急いで服を着替え、部屋を片付ける。髪にクシを通して、それから、崩れかけのメイクを整えた。


「……よし」


これで、朝比奈さんを家に迎える準備はオッケーだ。

……と、そう思ったと同時に思い出した、冷蔵庫の中。まるで写真のように、鮮明に思い出された。

今、我が家の冷蔵庫の中身は殆ど空っぽに近い状態。マヨネーズやケチャップ、チョコレートくらいしか入っていない。

飲み物と軽くご飯を作れる材料を買わないと……!


「ああ、もう!」


テーブル近くに放ってあったカバンの中からサイフを探り出して、私は近所のコンビニへ向かおうとした。

ちょうど玄関のドアノブを握った時、部屋に響いたのはインターホンの音。


「え……」


少し、嫌な予感がした。

まさか、朝比奈さんもう来ちゃった?


髪を手櫛で通す。無意味に何度かそれを繰り返して、そして、恐る恐るドアを押し開いた。

< 9 / 101 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop