サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
《はい、大丈夫です。待ってます》
朝比奈さんに返事を送り、私はソファーから立ち上がった。
急いで服を着替え、部屋を片付ける。髪にクシを通して、それから、崩れかけのメイクを整えた。
「……よし」
これで、朝比奈さんを家に迎える準備はオッケーだ。
……と、そう思ったと同時に思い出した、冷蔵庫の中。まるで写真のように、鮮明に思い出された。
今、我が家の冷蔵庫の中身は殆ど空っぽに近い状態。マヨネーズやケチャップ、チョコレートくらいしか入っていない。
飲み物と軽くご飯を作れる材料を買わないと……!
「ああ、もう!」
テーブル近くに放ってあったカバンの中からサイフを探り出して、私は近所のコンビニへ向かおうとした。
ちょうど玄関のドアノブを握った時、部屋に響いたのはインターホンの音。
「え……」
少し、嫌な予感がした。
まさか、朝比奈さんもう来ちゃった?
髪を手櫛で通す。無意味に何度かそれを繰り返して、そして、恐る恐るドアを押し開いた。