サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜

「ねえ、松本さん。その話、一度だけ僕に話してみない?」

「えっ……?」


彼女の瞳がまたくるりと丸くなった。とても大きく、丸く開いた瞳を僕に向けた彼女は、そのまま口をあんぐりと開いたままでいる。


「もちろん、無理にとは言わないよ。だけど、ただの上司である僕なら松本さんを嫌う事もないし……ほら、あまり近い関係じゃない人に話す方が話しやすいとか言うからさ」


……あれ、ちょっと入り込みすぎた?

少しだけ不安気に僕を真っ直ぐ見つめる彼女。そんな彼女の表情に、僕はやり過ぎたのではないかと後悔した。

だけど、本当に深い意味は無かった。ただ、本当に単純に彼女の心にある重たい荷物を僕が軽くしてあげられたらいいと思った。

何の下心も欲もなかった。それでも、彼女には良くは捉えられなかった。そういう事か。


「……それじゃあ。聞いてもらっても、いいですか?」

「いや、ごめんごめん。ちょっと僕が入り込みすぎただけだから……って、え?」


もう完全に、部下に引かれたと思っていた。そんな僕の耳に入り込んできたのは彼女の意外な返答。

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