サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜

「きっと、松本さんは松本さんなりに考えて、苦しんで、その選択をしたんだと思う。だけど、僕がその元彼だったとするなら……自分が彼女の事を愛しきれていなかったが故に離れていったなんて、悔しすぎる。彼は、松本さんが離れた理由を知らないだろうけど……何も言わずに離れられるなんて、多分、色々なことを考えて後悔してると思うよ」


自分の元を離れて行く理由すら聞く事ができないなんて、男として情けなくも思うと思う。

彼女は彼女で、彼が自分の事を好きではなくなってしまったと思っていて、それでいて付き合ってもらっているのは申し訳ないとも考えていたんだ。彼女だって、辛かったのも分かる。

だけど、何となくだけれど……彼女の話を聞く限り、彼は彼女の事を最後まで愛していたように思う。


「彼、夜中に松本さんに『会いたい』って言われて、会いに来てくれたんだよね?」


彼女が話してくれた話の中に、こんなエピソードが含まれていた。彼女は、僕を見上げるようにして見ながらコクリと一度だけ頷いた。

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