サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
「夜中に『会いたい』って言われて会いに行けるのは、本当に好きな女の子じゃないと男はしないよ」
「えっ……?」
「その気のない女の子だったり、キープの女の子だったり。本命以外の女の子にそう言われても、僕なら行けないな」
多分、男はみんなそうだよ。
そう付け足すと、彼女の瞳はうるうると揺れて、瞬きをした瞬間に一粒の涙が零れ落ちた。
彼女が、彼から離れた日の前日。彼女は真夜中に彼を呼び出したらしい。そうしたら、彼はすぐに来てくれたそうだ。
そんな事、本命以外の女の子になんかするわけがない。
きっと……いや、絶対に、彼女と彼は愛し合っていたはずだ。
そう思うと、何故か僕が無性に悔しくなった。悔しくて、少しだけ歯に力を入れて食いしばった。
「……辛かったね。大丈夫。思う存分泣いていいよ」
彼女が、彼のもとを去る事を決めた日の前日まで、確かに彼は彼女の事を愛していたはずだという事実。
彼女は、自分のとった行動を後悔したのか……それとも、嬉しくてなのか、僕がいる前で、まるで子供のように泣きじゃくった。