サイレント・キス 〜壁越し15センチの元彼〜
side C:永岡深月
「深月くん」
「ん? どうした」
『今日は、もう帰るね』と言って部屋へと帰って行ったはずの凛花が、泣き腫らしたであろう瞼のままで俺の家までやって来た。
とりあえず『どうした』なんて白々しい返事をしてみたけれど、大体の予想はつく。
「話したいこと……あって」
伏し目がちにそう言った凛花に、俺の予想は間違いなく当たりだろうと確信に変わった。
『戻ってこい』と言った俺の言葉。それの返答が、返ってくる。
「……ん。分かった。入れ」
先に奥へと進む俺。そんな俺の後ろから、小さな声で遠慮がちに「お邪魔します」と聞こえてくる。
凛花をリビングに通し、とりあえずソファーに座らせた。そして、俺はその向かい側当たりで立膝をついた。
「話って?」
凛花がこれから話したい事を知っているくせに、こうして敢えて話の内容を急かす。我ながら意地悪い。
凛花は、呼吸を整える為か何度も大きく深呼吸をした。