Mission.N
「――あっ…」

震えているせいで、声を出すことができない。

「ああ、そのパソコンはダミーだから」

社長が視線でパソコンを指差しながら言った。

「――なっ…!?」

何ですって!?

先ほどまでにらめっこをしていたパソコンに、あたしは視線を向けた。

「だから何度打ってもムダだよ、藍田くん」

テナーボイスに、自分の躰が震えたのがわかった。

クソ、騙された!

ギリギリと奥歯を噛みしめたい気持ちをこらえながら、
「――気づいていたんですか?」

あくまでも冷静さを装いながら、あたしは社長に声をかけた。

「とっくにね。

ただ産業スパイが自分の秘書だったとは思わなかったけど」

社長が答えた。
< 13 / 92 >

この作品をシェア

pagetop