Mission.N
だけど、
「――しくったな…」

洗面所の前でドライヤーで洗った髪を乾かしながら、あたしは呟いた。

社長は一体どこから現れたのだろう?

社長室は密室だったうえに、カギもかかっていたはずだ。

なのに、社長はあたしの前に現れた。

――俺のものになれよ

社長から言われた言葉が頭の中でよみがえった。

「――ッ…」

ドライヤーを止めると、鏡の中のあたしを見つめた。

胸のところまで伸ばしたストレートの黒髪は、生まれてから1度もカラーリングをしたこともなければパーマもかけたことがなかった。

少しだけキツめな目元は、まるで猫のようだ。

鼻は高くもなければ低くもない、口も厚くもなければ薄くもない。

顔立ちは整っているかどうかと聞かれたら困るが、生まれてから1度もブスだと言われたことはなかった。
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