Mission.N
えっ?

あたしは前を向けていた視線を社長に向けた。

「…何でしょうか?」

今の今まで、車内では言葉を交わさなかったはずだ。

珍しい、今日はどうしたのだろうか?

「昨日のことなんだけど…」

そう話を切り出した社長に、あたしは耳を疑った。

昨日の返事を、今ここで聞くの?

あたしたちのすぐ目の前には運転手がいる。

「それは、社長室についてからではないとダメでしょうか?

ここではすぐにお返事はできません」

そう答えたあたしに、
「ああ、そう」

社長は呟くように返事をした後、窓の外に視線を向けた。

よかったと、あたしはホッと胸をなで下ろした。

続けて聞かれたら、あたしはどうすることもできなかったかも知れない。
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