Mission.N
社長はいつからあたしの正体に気づいていたのかはわからないけれど、あたしも立派な産業スパイだ。

たった1人の妹が犯罪者として警察に捕まってしまう…。

そうなったら兄はアキエさんと結婚ができなくなってしまう…。

そう思ったら、あたしの目から涙がこぼれそうになった。

「――捕まるのは俺の方だ」

呟くように言った兄の顔を、あたしは見つめた。

「夏梅は俺の指示に従って、会社から情報を盗み出していただけだ。

だから、捕まるのは俺の方だ」

兄は立ちあがると、
「今すぐ、警察に自首をしに行く」

そう言った。

「お兄ちゃん!」

あたしは叫んで、兄の腕をつかんだ。

「お兄ちゃんは何にもしていない!

手を汚したのも、勝手に行動したのも、全てあたしの方よ!」

「でも俺が…!」

言い争いをしていたその時だった。
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