イレカワリ
「何でも聞いて」


あたしは呼吸が乱れて来るのを必死で整えて、そう答えた。


「お前は、本当に海の事を忘れているのか?」


その問いかけはあたしの心臓を貫いた。


本当に海の事を忘れているのか?


返事なんてできるわけがなかった。


歩は海の事を忘れてなんていない。


忘れたことにしておいた方がよかったから、忘れたと嘘をつき続けているのだから、


あたしはゴクリと唾を飲み込んだ。


「海の死体を見つけたのはお前だった。そのショックで海の記憶が無くなったと、当時の医者も言っていた。だけど、何度考えてもわからないんだよ。


どうして海が自殺をしたのか。本当はお前が海の死に関係してるんじゃないかって……」


言いながら、その表情は苦しげになって行く。


あたしは自分の足先がどんどん冷たくなっていくのを感じていた。


歩の両親も、歩の事を疑っていたんだ。


気が付けば、あたしは後ずさりをしていた。


あたしは海なんて知らない。


だって歩じゃないんだもん。


あたしはマホだから……!


そう叫びたい衝動をグッと我慢し、走り出していた。


「おい、歩!」


そんな声を背中に聞きながら、あたしは家を飛び出したのだった。
< 102 / 125 >

この作品をシェア

pagetop