イレカワリ
☆☆☆

黒い車は見慣れた景色の中を走って行く。


あたしは膝の上でギュッと手を握りしめてその様子を見守った。


「大丈夫か?」


「うん……」


あたしはぎこちなくほほ笑んでそう言った。


本当は大丈夫なんかじゃない。


あの車がどこへ向かおうとしているのか、最悪のパターンしか想像できていなかった。


それでも、隣に事情を理解してくれている純がいるだけ、あたしの心は平静さを保っている事ができた。


「この先はホテル街だ」


純はぽつりとつぶやいた。


その言葉に鼓動が早くなっていくのを感じる。


やっぱり、そうなんだ。


歩はまたあたしの体を使って売春しようとしているんだ。


そうとわかると、悔しくてあたしは下唇を強く噛んだ。


その痛みで心の苦痛が少しでも軽くなるように、グッと力を込める。


「ごめんな、もとはと言えば俺のせいだ」


純の言葉にあたしは「え?」と聞き返した。


「俺があいつに金を要求したから、こんな事になったんだ」


たしかにそうかもしれない。
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