Double Cool
 ホッと息がつける。




 「…忙しいのか?」

 「どうだろ?忙しいといえばいつものことだし」




 しばし、見るともなく二人テレビに見入る。


 別にその内容が特に面白かったり興味深かったわけではない。


 ただこうしてくっついて、まったりした時間を楽しんでいたかっただけ。




 「なあ」

 「ねぇ」




 だから、二人同時に言葉が出て、かち合ってしまったのには驚いてしまった。

 思わず顔を覗き込みあって、ふふふっと小さく笑い合う。




 「どうぞ」

 「いいよ」




 またも、重なってしまった言葉がくすぐったい。


 大した話ではなかったけれど、譲ってくれた順番に、ふと思いついた話を振る。


 本当に話さなければならない話は別にあるのに、つい先送りにしてしまう臆病さ。


 信じているのに、それでも、言い出すにはもう少しだけ勇気と時間がいるようだ。




 「…シェフ、雇ったんだね」

 「ん?」

 「昔から、修司の料理は玄人裸足で、てっきり料理も自分でやりたいんだと思っていたのに」

 「ああ」




 何度となく話してきたことだったけれど、それでも美澄は修司の料理を食べるたびに、どうして自分がシェフになることにはこだわらないのだろうと、不思議で同時にもったいないと思い続けていた。


 だからこの期に及んでも、つい惜しんでしまう。




 「私に作ってくれるだけじゃあ、もったいないじゃない?」

 「俺はそれで十分だよ。言ったろ?叔父貴がイタリア料理のシェフだったから、子供の頃からいろいろ仕込まれてきたけど、シェフになるほどの腕じゃないって」

 「脱サラして、すぐに開店しなくても、その叔父さんのところで修行するなり、ツテを辿ってイタリアに修行に行くなりしても良かったと思うけど」




 資金に困っていたわけではないはずだ。


 修司は一流と言われる大学を出て、大企業で将来を嘱望されるエリートと呼ばれる人間だった。


 本人が望んでいたのは別の道だったけれど、実家との兼ね合いでその道を歩んでいた。


 けれど常にその心うちには幼い頃からの夢を抱き続けて、そんな不本意な進路を選びながらも、それもまた資金集めという堅実な目標を持って、いつの日か自分の夢を実現するべく割り切った数年間を邁進し続けていただけのこと。





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