Double Cool
 「昔はそこらへんにもこだわったりしたけど、俺にとっての料理はあくまでも趣味なんだよ。それよりも、俺は自分の理想とする飲食店を作り上げたい、それが一番の焦点なんだ。理想の味を生んでくれるシェフ、目端が効いて暖かなもてなしを心がけることができるカメリエーレ(給仕係)、鮮やかに客の望むものを察することができるソムリエ。ソムリエの要求を忠実に再現できるバリスタ(酒係)。それらの人間を適材適所に配置して、一つの理想を実現したかったんだ」

 「…昔家族でイタリア旅行をした時に訪れたお店が理想なんでしょ?」

 「まあ、そうだね。でも、それはきっかけで、そこから理想は膨らんでってやつかな」




 何度となく聞いた話だったけれど、そのたびに目を煌めかせて嬉しそうに話す修司は本当に輝いていて、何度同じ話を聞いても美澄は飽きなかった。


 エリートサラリーマンだった修司も、いかにもデキる男という佇まいでたくさんの女性たちを惹きつけたけれど、こうしてラフな格好で少年のような目をして夢を語る彼には及ばないと、美澄は思う。


 そんな彼が好きだ。


 だから、誰が彼の夢を反対しようとも、美澄だけは支持して支えよう、そう思い、実際そうしてきた。




 「親には縁を切られる結果にはなったけどね」





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