Double Cool
 「…俺のこともそうだけど、そろそろお前も30才だろ?」




 ドキリと心臓が音を立てる。


 が、少しムッとしたフリで、




 「30才って、この前、29才の誕生日になったばかりだわよ。失礼な」


 「失礼、ってまんま言っただけなのに、なんでムッとするわけ?」




 ニヤニヤ笑う顔は当然、確信犯だ。




 「お前でも気にするんだな、年齢」

 「そりゃね。初対面の人に会えば、かなりの確率でけっこ………」




 言いかけて、口ごもる。


 けれど、言葉を待っている修司の顔に、何食わぬ顔で言葉を続けた。




 「結婚してるのか、子供はいるのかって、詮索されちゃうんだから、余計なお世話ってものよね」

 「今時そんなヤツいるの?セクハラじゃないか、それって」

 「悪気はないんだと思うんだけどね」

 「…ふぅん」




 髪を撫でたり、梳いてくれたり、もたれかかった体の温もりが嬉しい。


 先ほど飲んだアルコールの酩酊が、柔らかく気持ちをほぐし、いつものように修司と会うことで日々の仕事のストレスや疲労を忘れさせてくれる。




 「そろそろ俺たちも、二人のこれからのことを考えてもいい時期ってことかな。て、いうか、実は俺もさ」




 何食わぬように呟かれた言葉。


 けれど、グッと力を込められた修司の腕の力には、微睡んでいた美澄の目をハッと覚まさせるだけの威力を持っていた。


 ホンの一週間前まで考えていた仄かな期待…修司の夢が叶う目処がたち、自分との結婚をあらためて念頭に思い起こしてくれるのではないかと思っていたことが、今現実になろうとしているのに…それなのにその瞬間に彼女の頭に浮かんだのは―――、


 …言わせてしまったら、ダメだ。




 「美澄、俺たち、結…」





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