Double Cool
 先ほど、自分が遮ってしまった修司の言葉。


 それはたぶん、プロポーズの言葉だったのではないだろうか。


 少し前、修司がいよいよ店の構想を具体的にカタチにし始めて、準備が整い、前の会社に辞表を出した頃からそんな空気を感じるようになっていた。


 そして、美澄自身もそんな彼の気持ちに安堵していたのだ。


 …彼は私との将来を考えてくれている。


 夢へと邁進するための同志としてだけではなく、未来に家庭を築き、永久を約束するパートナーとして、そんな風に喜びを感じていたはずなのに。


 事情が変わってしまった―――一方的に、美澄側の事情だけが。




 「本音を言って?本当に私、今、フランスに5年も行ってしまっていいの?」

 「……3年だろ?」

 「5年かも知れない」




 修司もそんなことは先刻承知なのだ。


 それでも『3年』と口にしたそこに彼の真意が見えた気がした。




 「若い頃だったら、私迷わなかった。たとえ遠距離でも、修司を信じられたと思うし、修司もたぶん、そう」

 「何が違う?」 




 本当に何が違うんだろう。


 昔は気がつきもしなかった修司の周囲にいる若い女の子たちのキラメキとか、互いの忙しさにかまけて長く会えないでいる間に修司が何をして、何を思っているのかとか、そんな些細なことが急に気になって仕方がない時が多くなったように思う。




 「私…修司が行くなと言ってくれるなら」




 たとえ遠回りすることになるのだとしても、いやその夢さえ諦めてもかまわない、そう言おうとしたのに、なぜか続く言葉が出てこない。


 それでも、修司がそう望んでくれることを本当に願っていたのかもしれなかった。


 他力本願と言われようとも、美澄にとって夢と修司は一対の車輪、ずっとそうだったのだ。




 「修司」





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