Double Cool
 その修司の言葉に、心から美澄は納得して大きく頷いた。




 「素敵ね」

 「ああ、俺もそうありたい」




 修司らしいと思う。


 周囲のものたちがどう言おうと、彼は彼なりの美学に従い、いつも修司は美しく生きてきた。


 真っ直ぐに夢に向かってひた走り、誰もが羨む生活さえも捨てて理想を追う姿はとても美しかった。


 修司を恋人として愛する以上に、そんな彼に憧れた。


 彼が誇りだった。


 だからこそ、彼を支えたかったし、自分も修司にそんな風に誇られる女性でありたかったのだ。


 …だけど。


 もし、そんな自分の理想を追うことで、彼を失ってしまうのなら。


 修司を信じていないわけではない。


 けれど人の心は移ろいやすいものだし、弱いものだから。


 そう思う端から、もしかしたら諦めることになってしまうものへの未練に、ホンの少しだけ心の一部が痛むのを自覚する。


 しかし、自分にとって何が一番大切なことなのか。





 「修司」 

 「……………うん?」




 少し間が空いていた。

 
 見上げた修司の顔は眠そうで、彼女の声掛けに返事をしはしたものの、目はほとんど瞑ってしまっていた。


 そして―――、すぅ~っという寝息が聞こえて、修司の目が完全に閉じてしまう。





 「…もうっ」 




 修司の胸を叩きかけ、だがすぐに思い直して、美澄は小さく苦笑した。


 …しょうがないわね。でも、まあ、明日でもいいか。


 焦る必要はない。


 こうして明日も明後日も、彼と話す時間はいつでもあるのだから。


 そう、美澄は決めていた。


 …フランス行きは断ろう。


 彼女が美しい人生を生きるためにもっとも重要なピース、それこそが修司なのだから。


 いつの間にか、修司の規則正しい寝息を聞いているうちに、美澄にも眠りが訪れたようだ。


 気だるい眠気に身を任せ、うっとりと修司の腕の中で微睡む。


 …明日。




*****





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