Double Cool
 「…そ、そう。そうよね」




 他に何が言えたというのだろう。


 けれど、美澄の震える声音に気がついた修司が、ゆっくりと顔を上げて、今の言葉を訂正する。




 「勘違いするなよ」




 今更何を言おうというのか。


 もうすでに、美澄の心はズタズタだ。


 …私のせいなのに。

 
 それでも彼にあっさりと切り捨てられる自分に傷ついて、被害者よろしく涙ぐんでしまいそうな衝動を懸命に抑えている。




 「お前を待てない…そんなことに自信がないわけじゃない」

 「じゃあ、別れなくてもいいじゃない。たった3年のことなのよ?」

 「…5年かもしれないんだろ?」

 「…………」




 言葉を詰まらせた美澄から視線を反らして、修司がぼんやりと彼女の贈った花を見つめた。




 「あるいは、もっとかかるかもしれない。俺も長年会社に勤めて、仕事というものが水物であることはよくわかっている」




 そのとおりだ。


 3年だ、5年だというのは、あくまでも予定でのことで、いざとなればそれ以上の期間に渡る可能性は十分に否あるのだ。


 そこから目を反らせては、未来を決めることなどできなかったから修司に相談したかった。


 けれど、結局その相談は二択にすぎなかったのではないか。


 彼をとって仕事を諦めるか。


 あるいは、仕事をとって彼を諦めるのかという。




 「お前がまだ大学を出たての、二十歳そこそこの小娘だったら、俺は何年でも待つと言ったさ。けど、女盛りのお前を、果たして俺に縛り付けるのは正しいことなのか?」





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