Double Cool
 それは修司にとっても同様のことだっただろう。


 いくらでも若くて可愛い女の子はいる。


 そして、修司はモテない男ではない。


 彼にだとて、幸せになる権利はあるのだ。


 …私の夢のために何年も付き合わせることなんて、とてもできない。


 愛するがゆえの諦念。





 「……修司」

 「なんて、カッコイイこと言ってても、結局、お前に後悔されたくないのかもしれない。俺のために夢を諦めさせることなんかもちろん論外だけどな」

 「それでも待ってて欲しいって、私が言ってもダメなの?」




 その潔い横顔の怜悧さに、すでに美澄も彼の答えを悟っている。




 「俺は日本を離れられない」

 「わかってるわ」




 すでに夢の半ばを叶えて、その入口から大きく羽ばたこうとしている彼の今の状況。


 開いたばかりの店を放置して、美澄について来れるはずなどない。


 それ以上に―――、




 「日本にいてさえ俺たちのオフが合うことなんて、この数年、ほとんどなかった。日本を離れられない俺。フランスを離れられないお前。下手をすれば、遠距離恋愛中の3年だか5年の間、一度でさえ会うことができないこともありえるよな?」




 ゴクリと唾を飲み込んで、それでも嘘は吐けない。




 「……ええ」




 けれど、美澄はそれを肯定するのがひどく辛かった。


 なぜなら、…修司の予想を肯定することは、彼の申し出を受けざるえないということを意味していたから。


 恋人でいる意味がない。


 いや、どのみち恋人とさえ言える関係ではなくなってしまうだろう。


 だから…だから…。




 「互いに、互いへの幻滅に絶望してしまう前に、今…終わらせてしまおう」





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