Double Cool
 さすがに去ってゆく女が、いまさら、そんなことを尋ねるわけにもいかない。




 「…支度できた?」

 「ええ。大丈夫よ」




 身支度を追え、美澄がハンドバックを手に持ったタイミングで、寝室のドアを修司が開けて尋ねる。




 「なら、会社まで送るよ」




 その手に握られた車のキー。


 いつもだったらありがたく、彼の申し出に甘えて、楽しい時間が引き伸ばされた幸福を喜んだのに。




 「いいえ、いいわ。…今さっき、タクシーを呼んだから、ここでサヨナラしましょう?」


 「…………そうか」




 一瞬、彼が息を飲んだ気がした。


 けれど、修司もすぐに頷いて了承する。


 互いの顔に、まだ未練を見出しながら、それでもなに食わぬ顔でいつものように会話し別れるのだ。


 ドア口に立ったままの修司の横を通り過ぎて、玄関へと向かう。


 その通り抜けざま、キッチンカウンターに飾られた、昨日彼女自身が修司へと贈ったチューリップのアレンジメントが美澄の目に映った。


 彼はあの花の花言葉の意味を知っていただろうか。





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