Double Cool
 見慣れた後ろ姿を窓辺から見下ろし、修司は一人、回想に耽っていた。


 初めて出会った大学の校内。


 クールな美貌に戸惑いを浮かべて、彼を見上げた彼女に一目惚れをした時を思い起こす。


 きっと彼女は知らなかっただろう。


 どれだけ彼が彼女を愛して、焦がれていたか。


 彼女の夢に嫉妬して、何度となく自分のそばで自分だけを見つめてくれと言いたがっていた、卑小な男だということを知られたくないと思っていたかを。


 …お前は俺をさぞ物分りのいい男だと勘違いしていただろうな。


 彼女に頼られたかった。


 彼女に尊敬されたかった。


 ただただ、彼女に愛されたかったちっぽけな一人の男。




 「ふっ、やせ我慢もつきるよな」




 それとも見栄っ張りなだけだろうか。


 ついサラリーマン時代の長年の習慣だった、タバコを探してポケットに手を当て、ふっと思い直す。




 「そうか。タバコは辞めたんだったな」




 子供の頃からの夢に王手をかけ、今自分は幸せの絶頂であるべきはずだというのに。


 そこにはないタバコを探る代わりに、スラックスのポケットに手をいれ、結局渡すことのできなかった小箱を取り出し、パカリと中を開ける。


 おそらく彼女もわかっていただろう。


 それなのに自分は彼女にいいフリをして、カッコつけたいだけのために、自分にとってのすべてだった彼女を手放し、こうして一人うな垂れ黄昏ている。


 …いつも、俺は迷って後悔してばかりだ。





< 41 / 49 >

この作品をシェア

pagetop