Double Cool
 諦めたつもりで、この小箱をスラックスのポケットに忍ばせずにはいられなかったように。


 そして、こうして未練たらしく、彼女へと贈るはずだった結婚指輪を一人虚しく眺め、彼女が車へと消えてゆくのをただ見送っている。


 …もう一度、彼女の顔が見たい。


 そう思う気持ちの裏腹で、忠犬ハチ公よろしく彼女がこちらを振り向いてくれるのを待っている自分がいかにも情けなくて、そんな自分を彼女に知られたくない矛盾を抱えている。




 「美澄…」




 気が付けば、呟いてしまう。


 …行かないでくれ。


 けれど、そうして縋り付いたことで、彼女が不本意な選択を選び、その選択の原因となった彼を恨む姿を見たくなかったのだ。


 なんて、情けない。


 なんて、エゴイストな理由。


 ただ彼女の夢を応援していたかったのに。


 ―――理想の伴侶。


 彼女は知っていただろうか。


 彼へと贈ってくれたチューリップの花言葉を。




 「俺は待てた」



 …本当に待つことはできたんだ。


 彼女が自分の元へと戻ってきてくれさえしたならば。


 手の中の小箱を両手でギュッと握り締め、胸へと抱きしめ呟きを落とす。


 その横顔には涙は流れてはいなかったけれど、喪失の痛みにただ一人、孤独をジッと噛み締め、修司は小さなため息をついた。




*****





< 42 / 49 >

この作品をシェア

pagetop