恋するBread*それでもキミが好き
「オススメですよね、えっと、おか……」

危なくおからロールさんと言いいそうになる私。

「そうですね……人気なのはカレーパンとクロワッサンとか、メイプルメロンパンは今焼き立てです」

どれもおからロールさんが買ったことのあるパンばかりだけど、緊張でどれを薦めたらいいか頭の中は軽いパニック状態だった。

「ん~そうだな……あっ、松永さんが焼いたパンはある?」

「え?わわわ私ですか?」

思いもよらない言葉に、更に動揺する。

「今日はこちらのレーズンクーペなら、私が……」

そう言って今朝焼いたパンを指差した。

「じゃーこれにします」

迷うことなくトレイにおからロールとレーズンクーペを乗せた。

「あ、ありがとうございました!」


どうしよう……なんかめちゃくちゃうれしい。

名前を呼んでくれたことも、初めて声を聞けられたことも、私が焼いたパンを買ってくれたことも全部。

あんなにかっこいい人に出会ったのは初めてで、朝の数分間しか見れないあの人をなんとなく自分の妄想なんじゃないかと時々思ったりもしたけど、今やっとそれが現実と重なった気がした。


名前も職業も年齢も、何ひとつ知らないのに、確実に〝好き〟という気持ちが私の中で芽生えはじめた瞬間だった。

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