片恋シンデレラ~愛のない結婚は蜜の味~
隣に黙って座るのは奥様の桃様。家元と同い年ながらも背筋を伸ばし、84歳には見えないお若さを保っていた。

「隣に座るのは妻の桃だ」


「よろしくお願いします。久保川さん」

穏やかな物腰と優しそうな瞳。
二人揃って人柄の良さを見て取れた。


「冬也が選んで連れて来た女性だ。私と桃は二人の結婚に反対はしないが、できれば早急に式を挙げ、入籍して欲しい」


家元は自身の年齢や健康を考えての意向だろう。


「俺達としては入籍はするけど、式を挙げたくない」


「しかし、先方の親御さんは娘の花嫁姿を見たいだろうに」


「まぁ、それはそうなんだけど…特に彼女の祖母は孫の花嫁姿を切望している」


「なら、挙式はするべきだ。冬也」

冬也は家元に一喝され、隣の私に目配せした。

私が冬也との偽装結婚を承諾したのはお婆ちゃんに早く花嫁姿を見せる為だった。


「私も式は挙げたいです」
でも、出来れば列席者は身内のだけの地味な感じをいい。


「花嫁の意向を汲んで、早急にこの私が二人の挙式場所を探そう」

「挙式場所なら俺達で探します」

「それはダメだ。お前と久保川さんの結婚は次期家元の顔見せも兼ねる。だから、披露宴も行うぞ」

「ひ、披露宴はちょっと・・・なぁ?夏芽」

「次期家元の顔見せも兼ねてると言ったぞ。挙式だけでは済ませない!!」
84歳とは思えないパワフルな大声に圧倒され、私と冬也は黙って従った。


「そもそも、何故?父さんが破門されたのか・・・知りません。
俺がお爺様の後を継ぎますが、父さんの破門理由を教えて下さい。俺には知る権利があると思います」


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