一緒にいたいから
「お母さん」


私は母の部屋に入った。

母はひとり、椅子に座ってこちらを向いた。


「何?」

「スケくんが今夜いなくなるって…知ってた?」


私がそう言うと、母はぐっと涙をこらえるように眉を寄せた。

母は父のような、薄情な人じゃない。

孤児の私達にも愛情を持って育ててくれた。

私は母の様子から、母が今回のことに胸を痛めていると分かった。


「お母さん、スケくんのこと、なんとかなかったことに出来ないの?」


私が聞くと、母は苦しそうにしながらも答えてくれた。


「あの人は、スケくんをある団体に売るつもりなの。

私もスケくんがいなくなるのは嫌だけど、その団体、買った子供に対してきちんと教育を受けさせて、良い待遇を用意してるって有名なところなの。

貧乏な私達のところにいるより、スケくんもそういったところにいる方が良いのかなと思って…」


母はスケくんのことを見捨てた訳じゃなかった。

むしろ、スケくんのことを思ってこの決断をしたんだ。


それを聞いて、スケくんのことを黙って見ていた母を罵倒するわけにもいかなくなった。
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